東大物理'05年前期[3]

 レーザー光が原子に与える作用を用いることにより、原子気体を冷却し、なおかつ空間のある領域に保つことができる。そのような冷却原子気体を用いて、原子の波動性を検証する次のような実験を行った。
 図
31のように、鉛直上向きをz軸とする直交座標系を設定する。レーザー光によって冷却原子気体を点のまわりに保つ。この点からLだけ鉛直下方に、原子が当たると蛍光を発するスクリーンを水平(xy面上)に置く。これらはすべて真空中にある。冷却原子気体の空間的広がり、二重スリットの感覚d,および長さaは、Ll に比べて十分小さいとする、スクリーンの蛍光のようすは、ビデオカメラによって撮影する。
 時刻にレーザー光を切ると、個々の原子はその瞬間に持っていた速度を初速度とし、重力のみを受けた運動を始める。一部の原子は二重スリットを通過し、スクリーンに到着する。時刻以降、原子どうしの衝突はないものとする。二重スリットを通過した原子のうち、
z軸方向の初速度がゼロであったものがスクリーンに到着する時刻をとする、単位時間あたりにスクリーンに到着した原子数の時間変化は図32のようであった。原子の質量をm,プランク定数をh,重力加速度をgとする。

T l Lに比べて十分小さく、二重スリットを通過した原子の加速は無視できるものとして、以下の問に答えよ。
(1) 二重スリットを通過した原子のうち、z軸方向の初速度がゼロであったものがスリット通過直後に持っていた速さv,およびド・ブロイ波長λを求めよ。
(2) 時刻にビデオカメラによって撮影された画像には、図33のような干渉縞が写っていた。この干渉縞の間隔を求めよ。ただし、dより十分大きく、l より十分小さいとする。必要ならば、θ 1より十分小さいときに成り立つ近似式を用いよ。
(3) 時刻の前後にビデオカメラによって撮影された画像にも、図33と同様な干渉縞が写っていた。時刻tに観測された干渉縞の間隔を縦軸、時刻tを横軸として、tの関係を表すグラフの概形を描け。だたし、図32のように時刻の位置を横軸に明示すること。

U Lを固定し、l を変化させて実験を繰り返した。ただし、l の大きさはLと同程度で、二重スリットを通過した後の原子の加速は無視できないものとする。z軸方向の初速度がゼロであった原子がスクリーンに到着する時刻に観測される干渉縞の間隔をとする。l の関係を最も適切に表しているグラフを図34()()の中から一つ選び、その理由を答えよ。


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解答 Uの加速度の影響については、考え込んでしまいます。

T(1) 距離L落下後の速さvだから、等加速度運動の公式より、
......[]
ド・ブロイの公式より、 ......[]

(2) 33のように、蛍光スクリーン上に干渉縞と垂直にx軸をとります。
二重スリットを通過した原子の進行方向とz軸のなすθ として、l より十分に小さいので、
蛍光スクリーン上で原子の到着する点の
x座標xとして、
隣接する二つのスリットから蛍光スクリーンまでの
距離の差は、
蛍光スクリーン上でド・ブロイ波が強め合う条件は、
(n:整数)

は、に対応する明線の間隔として
......[]

(3) にたどり着く原子はz軸負方向の初速度を持って飛び出すので、二重スリットに到達したときの速さvよりも大きく、ド・ブロイ波長(1)λよりも小さい。
従って、(2)によると、
にたどり着く原子は
z軸正方向の初速度を持って飛び出し、一旦z軸正方向に進んでから落下してきます。の地点を通過するときにはz軸負方向の速度を持っており、二重スリットに到達したときの速さvよりも大きく、ド・ブロイ波長(1)λよりも小さい。
従って、この場合も、
つまり、は、において最大値をとります。
グラフは右図のようになります。

U 二重スリット通過後、加速されて原子の速さが次第に大きくなります。落下するに従って、ド・ブロイ波長もそれに応じて次第に小さくなります。ということは、この問題では、一定の速さで空間を波動が伝わる場合と同じように干渉を考えることはできません。
ですが、二重スリット通過後、l が変化しても、干渉する2波が同じ距離を進むのであれば、2波でド・ブロイ波の変位は同じはずなので、蛍光スクリーンに近いところでの経路差の中に波長がいくつ入るかで強め合う条件、弱め合う条件を考えることができるはずです。
蛍光スクリーンまで原子は
距離落下してきます。
蛍光スクリーン付近での
速さとして、等加速度運動の公式より、

T(2)と同様にして、
lとの関係に近い関数、 ()を考えてみます。
()
より、を縦軸、l を横軸にとってグラフを書くと、単調増加で上に凸なグラフとなります。原問題では、単調増加で上に凸なグラフの()を選びます。


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