東京工業大学2010年前期物理入試問題


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[1] 密度が一様で等辺の長さがLである直角二等辺三角柱の形状をした2つの物体ABがある。図に示すように、等辺の1つを下にして、2つの物体をz軸上で接するようになめらかな水平面上に置く。接する線分の中点を原点Oとし、物体に沿ってx軸を、鉛直上向きにy軸をとる。物体Aを水平面に固定し、物体Aの斜面の中点Pから斜面に垂直に速さで小球を投げ出したところ、小球は物体Aに衝突することなく、物体Bの斜面上の点Qに、斜面に垂直に衝突した。小球と物体Bとの衝突は弾性衝突であり、小球はxy平面内を運動する。小球の質量をm,物体Bの質量をM,重力加速度の大きさをgとして、物体Bを水平面に固定した場合と固定しない場合について、以下の問いに答えよ。

[A] 物体Bを水平面に固定した場合について考える。このとき、小球は物体Bの斜面上の点Qに衝突した後、点Pに衝突した。
(a) Qx座標とy座標をLを用いて表せ。また、gLを用いて表せ。
(b) 小球が点Qで物体Bと衝突してから、物体Aに衝突するまでに到達し得る最高点の水平面からの高さHLを用いて表せ。

[B] 物体Bを水平面に固定せず、物体Bが水平面上をx軸の正の向きに自由に運動できる場合について考える。このとき、物体Bの斜面上の点Qに衝突した小球は、その後、2つの物体に衝突せずに原点Oに落下した。
(c) 小球が物体Bと衝突してから原点Oに落下するまでに、小球が到達し得る最高点の水平面からの高さHを用いて表せ。
(d) 小球が物体Bと衝突した直後の、小球の速度のx成分vと、物体Bの速度Vを、mMおよびを用いて表せ。
(e) 小球が点Pから点Qまで運動するのに要する時間をTとするとき、小球が点Qに衝突してから原点Oに落下するまでに要する時間Tを用いて表せ。
(f) 物体Bの質量と小球の質量の比を有効数字2桁で求めよ。
[解答へ]


[2] 真空中に半径Rの絶縁体球があり、この球内に単位体積あたり ()の負電荷が一様に分布している。図1に示すように、この球の中心を含む平面に沿って狭い隙間を開ける。平面上の隙間を含む平面をxy平面とし、球の中心を座標の原点Oとする。隙間の幅は無視できるとする。この隙間内で原点Oより距離r ()の点における、絶縁体球全体の電荷による電場は、原点Oを中心とする半径rの球内に存在する全電荷が原点Oに集中していると考えたときに、この電荷が作る電場と等しいことが知られている。
この隙間内で、正電荷
qをもち、質量mで大きさの無視できる荷電粒子が摩擦なく運動する。以下の問いに答えよ。ただし、重力の影響を無視し、この荷電粒子は絶縁体球と絶縁されており、この荷電粒子の運動に伴う絶縁体球内の電荷の分布の変化はないとする。

[A](a) 原点Oから距離r ()にこの荷電粒子があるとき、この荷電粒子の受ける力は原点Oに向かう向きであり、大きさはと書ける。Cを求めよ。ただし、真空中のクーロンの法則の比例定数をとする。
以下の問いでは、答にCが含まれるときには、問(a)で得られたCの値は代入せずにCを用いよ。
(b) rに比例する形であることに着目して、原点Oから距離r ()にこの荷電粒子があるときの静電気力による位置エネルギーを答えよ。ただし、原点Oを位置エネルギーの基準点にとることとする。
(c) 原点Oにあるこの荷電粒子にx軸の正の向きに速さを与える。この荷電粒子が絶縁体球の表面()まで到達するためのの最小値を求めよ。

[B] つぎに、z軸の正の向きに磁束密度の大きさがBの一様磁場を加える。
(d) (c)と同様に、原点Oにあるこの荷電粒子にx軸の正の向きに速さを与えたところ、図2に示す曲線に沿ってこの荷電粒子は運動し、絶縁体球の表面に到達した。球の表面に到達したこの荷電粒子の速さvを求めよ。
(e) 原点Oから距離r ()にあるこの荷電粒子に適当な速度を与えると、この荷電粒子が隙間内で原点Oを中心とする半径rの等速円運動を行う。図3に示すように、円運動がxy平面で(i)時計回りのとき、(ii)反時計回りのとき、それぞれについて円運動の角速度の大きさを求めよ。
(f) 以下の空欄に入る適切な数式を答えよ。
(e)では、この荷電粒子の円運動が(i)時計回りのときと(ii)反時計回りのときとで角速度の大きさが異なっている。もし、この荷電粒子の運動を、原点Oを中心として、角速度xy面内を時計回りに回転運動している観測者Kから見ると、(i)時計回りのときと(ii)反時計回りのときとでこの荷電粒子の円運動の角速度の大きさは等しく、ともにと観測される。
これは物理的には次のように解釈できる。観測者
Kから見たときの電場や磁場の観測値は、静止している観測者Sから見たときとは異なる。観測者Kから観測すると、この隙間内の磁場はなく、電場は原点Oに向かう向きとなっている。このために、観測者Kから見たときのこの荷電粒子の円運動の角速度の大きさが、(i)時計回りのときと(ii)反時計回りのときとで等しくなっている。また、観測者Kから見たときの電場からこの荷電粒子が受ける力の大きさは (は定数)と書ける。ここで、であり、この値はCとは異なっていて、確かに電場の観測値は、観測者Kと観測者Sで異なっていることが分かる。
[解答へ]


[3] シリンダーとなめらかに動くピストンからなる、熱容量が無視できる密封容器に、1モルの単原子分子理想気体(以後、気体という)を封入する。気体定数をRとし、気体の圧力と温度が、容器内で場所によらず同じ値をとるものとする。以下の問いに答えよ。ただし、温度は全て絶対温度で表すものとする。

[A] 容器の外には、気体と熱のやりとりをする物体などはないものとして、ピストンに加えた力による気体の状態変化を考える。状態変化前の気体の圧力、体積、温度をそれぞれとする。
(a) 気体を圧縮すると、体積が,温度がとなった、この状態変化では、気体の圧力pと体積Vとの間にの関係があることを利用し、bのみを用いてaを表せ。
(b) (a)の状態変化において、ピストンに加えた力が気体にした仕事をWとする。bのみを用いてWを表せ。

[B](c) (a)の状態変化の後、ピストンを固定し、熱容量の物体を容器に接触させ、容器を通して物体と気体との間のみに熱が伝わるようにした。容器に接触する前の物体の温度をとする。物体を容器に接触させてしばらくすると、気体と物体が同じ温度になった。bxのみを用いてcを表せ。
(d) 一方、問(a)の状態変化の後、熱容量の物体と容器を接触させると同時に、気体の圧力を一定に保つようにピストンを動かし、しばらくすると気体と物体が同じ温度になった。このときの気体の体積をとするとき、bxのみを用いてeを表せ。

[C](e) (d)の状態変化の後、ピストンを固定し、温度の熱源を物体に接触させた。気体、物体、熱源の三者の間で熱が伝わるものとする。熱源を物体に接触させてしばらくすると、気体、物体、熱源ともに温度になった。このときの気体の圧力をとするとき、bxのみを用いてfを表せ。
(f) (e)の状態変化の後、気体、物体、熱源の温度を一定に保たせながら、ゆっくりとピストンを動かし、気体を膨張させた。この間に熱源と気体との間でやりとりされる熱量を,ピストンを介して気体がする仕事をとするとき、の絶対値との絶対値の大小関係を答え、その理由を簡潔に記せ。
[解答へ]




各問検討

[1](解答はこちら) 等加速度運動と衝突の問題です。解答の通り、問題文の誘導通りに進めて行けば、ややこしいですが難問というわけではありません。
ところで、本問は恐らく、出題者の想定は、解答の「追記」までのものだろうと思います。ですが、これでは、小球と斜面の衝突で、斜面に沿う方向の速度について、斜衝突の原則から外れてしまいます。さりとて、
[B](c)(d)という流れでは、斜面に垂直に衝突したので垂直に跳ね返る、として考えて行かないと解答できません。であれば、問題文中に「小球は、物体Bの斜面と垂直に跳ね返った」と明記するか、それと同等の条件(小球と物体Bとの衝突の瞬間に物体Bと床との固定を外す)を記述してくれていないと、「追記」に書いた、もう一つの本来の斜衝突としての解答があり得てしまいます。
物理の入試問題では、問題文がうまくできていなくて、どう解答して良いか迷うような局面に出会うことがあるかも知れません。こうしたとき、受験生としては、わざわざ出題者の意図に逆らったりせずに、本問であれば
[A]からの類推で[B]も同様にして良いのだろう、と判断して解答するべきです。問題文に書かれている状況が、不合理だ、とか、あり得ない、と、追求してみても、合格という目標に近づけるわけではありません。問題文をよく読んで、出題者が何をさせたいのか、出題意図の把握に努めるべきです。
ただ、本問と同様の状況で、斜衝突として答えさせる問題もあり得るので、「追記」以降についても参考にしてください。追記では、水平方向の運動量保存、反発係数の式と力学的エネルギー保存を用いて解答してありますが、斜衝突の問題であることが明確であれば、力学的エネルギー保存の式を立てると面倒になるので、相対速度の衝突面に沿う方向の成分が変化しない
(追記では、速度を求めた後で確認しています)として立式して解答してください。



[2](解答はこちら) 運動する観測者から見た電磁場は、静止している観測者から見た電磁場とは異なって見える、ということをテーマとした問題です。
磁束密度の大きさが
Bの一様な磁場の中を、電荷qをもつ荷電粒子が速さvで磁場と垂直な方向に運動しているとします。磁場は荷電粒子に、荷電粒子の運動方向と磁場の双方に垂直な方向に、大きさのローレンツ力を及ぼすので、この力を受けて荷電粒子は運動の方向を変えます。
この現象を、この荷電粒子と同じ速度で運動する
(電荷をもたない)観測者から見るとどう見えるか、というと、同じ速度で運動しているので静止して見える荷電粒子に大きさのローレンツ力が働いて運動方向が変わるように見えるのです。静止していればローレンツ力は0になるはずなので、この観測者には、どうしてローレンツ力が発生し、荷電粒子の運動方向が変わるのか、説明することができなくなってしまいます。
そこで、磁場中を運動する観測者から見ると、誘導電場ができていて、荷電粒子は誘導電場から力を受けるように見える、と、考えます。誘導電場の大きさを
Eとすると、電荷qがこの電場から受ける力の大きさはなので、先のローレンツ力の大きさと等しいとして、


つまり、速さvで磁場と垂直な方向に運動する観測者には、大きさの誘導電場が、磁場と速度の双方に垂直な方向にできていて、この電場が荷電粒子に力を及ぼすように見える、と考えます。観測者が、磁場と垂直な平面内で、半径rの円軌道上を角速度ω で等速円運動していれば、として、観測者には、大きさの誘導電場ができているように見えます。
これが、アインシュタインの相対性理論の出発点になっているのですが、こうしたことが、本問の背景にあります。以上のことを少しでも知っていれば、本問は問題なく解答できると思います。注意すべき点があるとすれば、
[A](b)で、原点からの距離rの地点での静電気力をとして、この位置エネルギーを求めさせているのですが、こうしたところでは、位置エネルギーの定義をしっかり理解できているか、ということが問われます。何気なく参考書や問題集の解答を読み流してしまうと、いざ、位置エネルギーを求めよ、と、言われたときにまごつきます。簡単な問題のように見えても、どういう力の仕事を考えていて、力はどちらを向いているのか、移動方向とどういう関係にあるか、こうした基本的なことが理解できていないと解答できません。物理には、こうしたところがいくつかあって、単に公式の字面を記憶していても、実際の問題に当たったときに、公式の適用の仕方がわからない、ということが起こります。公式の意味するところからしっかりと理解するように心がけてください。



[3](解答はこちら) 設問の仕方はやや変わっているのですが、内容的には気体の頻出問題です。気体分野を苦手とする受験生をよく見かけますが、状態方程式の方に関心が向かい過ぎていて、熱力学第一法則への意識が薄いことが理由のように思います。本問では、熱力学第一法則が重要なキー・テーマとなっています。熱力学第一法則:は、気体が吸収した熱Qが、気体がした仕事Wに使われ、残りは内部エネルギーの変化分になる、という法則です。お金の問題に直して言えば、もらったお金Qが使ったお金Wと貯金になる、という簡単な内容の法則です。必ずマスターし、実戦の場で使いこなせるようにしておいてください。断熱変化の場合に仕事を聞かれたとき、より、として仕事を求めますが、仕事と言っても、結局、温度変化を求めることになります。
また、本問では、熱の移動や熱容量もテーマになっています。熱の移動は、
Aが失った熱がBの受け取った熱になる、という極めて当然なことです。「熱容量」は、物体の温度を上げるのに必要な熱量、と言うとわかりにくいですが、要するに熱しやすいか熱しにくいか、ということです。人間でも、ちょっとしたことで頭に血が上ってカーと燃えたかと思うと次の瞬間にはさめている、という人もいますが、何をされても冷静沈着な人もいます。それと同じことです。
「物理法則」というと、まるで原子爆弾でも扱うかのような恐怖感を感じる人がいるのですが、高校の教科書に登場する物理法則は、いずれも、身の回りで日常的に起こっていて、常識的にとらえられるようなことばかりです。教科書傍用問題集で少し練習して慣れてもらえれば何でもないことなので、こわがらないようにしましょう。

[A](a)のポアッソンの式:は圧力pと体積Vに関する式なので、ポアッソンの式を立てると、状態方程式は立てない、と、勘違いしている受験生もよく見かけます。ポアッソンの式は状態方程式と相反する関係式ではなく、ポアッソンの式と状態方程式は連立して使うのだ、と、覚えておいてください。
気体分野は、入試物理の範囲の中では、覚えることが多く、それらを連携させて問題を解くので、敷居が高く感じられて毛嫌いされてしまう面もありますが、基礎事項をしっかりマスターしてしまえば、入試物理の範囲の中ではもっとも得点しやすい分野です。食わず嫌いにならないようにしましょう。



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