東大物理'07年前期[2]

 図21(a)のように、導体でできた中空の円筒を鉛直に立てて、その中に円柱形の磁石をN極が常に上になるようにしてそっと落したら、やがてある一定の速さで落下した。これは、磁石が円筒中を通過するとき、電磁誘導によりその周りの導体に電流が流れるためである。磁石の落下速度がどのように決まるかを理解するために、導体の円筒を、図21(b)のように、等間隔で積み上げられたたくさんの閉じた導体リングで置き換えて考えてみる。以下の問に答えよ。

T まず、図22のように、1つのリングだけが水平に固定されておかれており、そのリングの中心を磁石が一定の速さvで下向きに通り抜ける場合を考える。z座標を、リングの中心を原点として、鉛直上向きが正になるようにとる。磁石はz軸に沿って、z軸の負の向きに運動することに注意せよ。
(1) 磁石がリングに近づくときと遠ざかるとき、それぞれにおいて、リングに流れる電流の向きと、その誘導電流が磁石に及ぼす力の向きを答えよ。電流の向きは上向きに進む右ねじが回転する向きを正とし、正負によって表せ。
(2) 磁石の中心の座標がzにあるとき、に置かれたリングを貫く磁束を、図23のように台形関数で近似する。すなわち磁束は、区間0から最大値に一定の割合で増加し、区間で最大値から再び0に一定の割合で減少するとする。ここで磁束の正の向きを上向きにとった。磁石が通過する前後に、このリングに一時的に誘導起電力が現れる。その大きさをvabを用いて表せ。
(3) リング一周の抵抗をRとしたとき、誘導起電力によって流れる電流の時間変化のグラフを描け。リングに電流が流れ始める時刻を時間tの原点にとり、電流の正負と大きさ、電流が変化する時刻を明記せよ。ただし、リングの自己インダクタンスは無視してよい。

U 次に、図21(b)のように、鉛直方向に問Tで考えたリングを密に積み上げ、その中を問Tと同じ磁石が通過する場合を考える。鉛直方向の単位長さあたりのリングの数をnとする。
(1) リングに電流が流れるとジュール熱が発生する。磁石が速さvで落下するとき、積み上げられたリング全体から単位時間当たりに発生するジュール熱を求めよ。
(2) 磁石の質量をM,重力加速度をgとしたとき、エネルギーの保存則を用いると磁石が一定の速さで落下することがわかる。その速さvを求めよ。ただし、このとき空気の抵抗は無視できるものとする。

V 図21(a)で、磁石のN極とS極を逆にして実験を行うと、磁石はどのような運動を行うか、その理由も示せ。

解答T(1) ・磁石がリングに近づくとき、リングによって形成されるコイルを貫く上向きの磁束は増大し、上向きの磁界が強くなるので、レンツの法則により、コイルにはこれを抑える向き、つまり、下向きの磁界を作る方向に誘導起電力が発生します。右ねじの法則より、(右ねじが下向きに進むことになるので)誘導電流の向きは負 ......[] (上から見ると誘導電流は時計回りに流れます)
コイルに向かい合っているのはS極で磁荷をもっており、誘導電流が作る下向きの誘導磁界と逆向きが働く(磁界を参照)ので、誘導電流が磁石に及ぼすの向きは、z軸正方向 ......[]

・磁石がリングから遠ざかるとき、コイルを貫く上向きの磁束が減少し、上向きの磁界が弱まるので、レンツの法則により、コイルにはこれを抑える向き、つまり、上向きの磁界を作る方向に誘導起電力が発生します。右ねじの法則より、(右ねじが上向きに進むことになるので)誘導電流の向きは正 ......[]
コイルに向かい合っているのはN極で磁荷をもっており、上向きの誘導磁界と同じ向きが働くので、誘導電流が磁石に及ぼすの向きは、z軸正方向 ......[]

(2) リングを1回巻きのコイルと考えて電磁誘導の法則より、誘導起電力の大きさVは、
 (合成関数の微分法を参照)
誘導起電力が現れるとき、は図2-3の範囲における傾き()であり、は磁石が落下する速さvになります。
......[] (のときも同様です)
2-3において、で一定になっている間は、誘導起電力0です。

(3) リングに電流が流れ始めるというのは、のときです。磁石がからまで進む時間は、
T(1)より、における電流負の向きであって、オームの法則より、
磁石がに来るのは、のときで、における電流は、磁束が変化せず起電力が生じないので、
磁石がに来るのは、のときで、T(1)より、における電流正の向きであって、オームの法則より、
以上より、電流のグラフは右図。

U(1) 1個のリングに発生するジュール熱Qは、近づくときと遠ざかるときの2度、時間の間、一定の大きさ電流が流れることに注意して、
磁石が単位時間に通過するリングの個数は(単位長さあたりのリングの個数×1秒に落下する距離)だから、単位時間に発生するジュール熱は、
......[]

(2) 題意より、(1)で求めた単位時間に発生するジュール熱は、エネルギー保存則より、磁石が単位時間に失う位置エネルギーに等しくなります(一定速度で落下するので、運動エネルギーは変化しない)
磁石が単位時間に失う位置エネルギーは、
これを
(1)の結果に等しいとおくと、
より、両辺をvで割って、vについて解くと、
......[]

V 磁石周囲にできる磁力線の向きが逆になるので、T(1)で考察したリングに流れる電流の向きが逆になりますが、磁石のN極とS(従って、磁荷の正負)が入れ替わっているので、磁石に働く力の向きは変わりません
リングに流れる電流の大きさ、磁石が受ける電磁力重力の大きさも、T,Uの状況と変わりはなく、T,Uと同様に、磁石は一定の速さvで落下します。速さvはU(2)で求めた値と同じ値です。
2-1(a)と同じ速さで落下する。リングの誘導電流の向きが逆になるが、磁石のN極とS極が入れ替わるので磁石が受ける力の向きは変わらず、力の大きさも変わらないから。 ......[]


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