東京大学2007年前期物理入試問題


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[1] バイオリンの弦は弓でこすることにより振動する。弓を当てる力や動かす速さの影響を、図11に示すモデルで考えてみよう。長さLの軽い糸を張力Fで水平に張り、糸の中央に質量mの箱を取り付ける。箱は、糸が水平の状態で水平面と接しており、糸の両端を結ぶ線分の垂直二等分線上をなめらかに動くことができる。図11(b)のように、糸の両端を結ぶ線分の中点(太矢印の始点)を箱の変位xの原点とし、太矢印の向きを変位および力の正の向きとする。箱の変位は糸の長さに比べて十分小さく、糸の張力は一定と見なすことができる。図11(c)のように、箱の上には正の向きに一定の速さVで動いているベルトがあり、箱に接触させることができるようになっている。ベルトから見た箱の速度をベルトと箱の相対速度と定義する。ベルトと箱が接触している状態で相対速度が0のとき、ベルトから箱に静止摩擦力が働く。静止摩擦係数をμとする。ベルトから箱に働く動摩擦力および糸と箱に働く空気抵抗を無視する。

T ベルトと箱が接触していないときの箱の運動を考える。図11(b)のように、糸の両端を結ぶ線分と糸がなす角をθ [rad]とする。必要があれば、1に比べて十分に小さいときに成り立つ近似式を用いてよい。
(1) 糸から箱に働く復元力の大きさをFθ を用いて表せ。また、この復元力の大きさをLFxを用いて表せ。
(2) 箱に初期変位か初期速度を与えると、箱は単振動をする。単振動の周期TLFmを用いて表せ。

U 箱が単振動をしているとき、ベルトを一定の垂直抗力Nで箱に接触させたところ、ベルトと箱がくっついている状態と滑っている状態が交互に現れた。箱の変位x0,箱の速度がV (すなわち、ベルトと箱の相対速度が0)となる瞬間があり、この瞬間を時間の原点とする。で、箱の変位xは図12OPQRに示すように周期的に変化する(2周期分を示している)OPは直線、PQは正弦曲線の一部、QRは直線、ROPQRのくり返しである。また、直線OPは点Pで正弦曲線PQと接している。点Oから点Rまで箱の1周期の運動に要する時間をとする。
(1) の範囲で、(a)箱の速度、(b)ベルトと箱の相対速度、(c)糸から箱に働く復元力、(d)ベルトから箱に働く静止摩擦力、を表す図を、図13()()からそれぞれ選べ。
(2) 箱がベルトに対して滑り始める点Pでの箱の変位sLFμNを用いて表せ。
(3) PQ間では、箱は問T(2)で考えた単振動と同じ運動をする。箱の最大変位ALFmVμNを用いて表せ。
(4) ベルトから箱に働く垂直抗力Nを大きくすると、箱の最大変位Aと箱の1周期の運動に要する時間は、それぞれ、大きくなるか、小さくなるか、変わらないか、を理由とともに答えよ。理由の説明に図を用いてよい。
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[2] 図21(a)のように、導体でできた中空の円筒を鉛直に立てて、その中に円柱形の磁石をN極が常に上になるようにしてそっと落したら、やがてある一定の速さで落下した。これは、磁石が円筒中を通過するとき、電磁誘導によりその周りの導体に電流が流れるためである。磁石の落下速度がどのように決まるかを理解するために、導体の円筒を、図21(b)のように、等間隔で積み上げられたたくさんの閉じた導体リングで置き換えて考えてみる。以下の問に答えよ。

T まず、図22のように、1つのリングだけが水平に固定されておかれており、そのリングの中心を磁石が一定の速さvで下向きに通り抜ける場合を考える。z座標を、リングの中心を原点として、鉛直上向きが正になるようにとる。磁石はz軸に沿って、z軸の負の向きに運動することに注意せよ。
(1) 磁石がリングに近づくときと遠ざかるとき、それぞれにおいて、リングに流れる電流の向きと、その誘導電流が磁石に及ぼす力の向きを答えよ。電流の向きは上向きに進む右ねじが回転する向きを正とし、正負によって表せ。
(2) 磁石の中心の座標がzにあるとき、に置かれたリングを貫く磁束を、図23のように台形関数で近似する。すなわち磁束は、区間0から最大値に一定の割合で増加し、区間で最大値から再び0に一定の割合で減少するとする。ここで磁束の正の向きを上向きにとった。磁石が通過する前後に、このリングに一時的に誘導起電力が現れる。その大きさをvabを用いて表せ。
(3) リング一周の抵抗をRとしたとき、誘導起電力によって流れる電流の時間変化のグラフを描け。リングに電流が流れ始める時刻を時間tの原点にとり、電流の正負と大きさ、電流が変化する時刻を明記せよ。ただし、リングの自己インダクタンスは無視してよい。

U 次に、図21(b)のように、鉛直方向に問Tで考えたリングを密に積み上げ、その中を問Tと同じ磁石が通過する場合を考える。鉛直方向の単位長さあたりのリングの数をnとする。
(1) リングに電流が流れるとジュール熱が発生する。磁石が速さvで落下するとき、積み上げられたリング全体から単位時間当たりに発生するジュール熱を求めよ。
(2) 磁石の質量をM,重力加速度をgとしたとき、エネルギーの保存則を用いると磁石が一定の速さで落下することがわかる。その速さvを求めよ。ただし、このとき空気の抵抗は無視できるものとする。

V 図21(a)で、磁石のN極とS極を逆にして実験を行うと、磁石はどのような運動を行うか、その理由も示せ。
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[3] 図31のように、水面上で、波長λの波が左から右にまっすぐ進み壁に垂直に衝突している。壁に沿った方向をx方向とし、壁には自由にすき間を開けることができるようになっているとする。すき間を通った波を壁の右側の点で観測する。以下の問に答えよ。

T 点Pは充分遠方にあるとし、図31のようにから見たP方向の角度をθ とする。問T(1)(2)で開けるすき間はすべて同じ幅とする。また、そのすき間の幅は波長λに比べて小さいので、各すき間からは、そこを中心とする円形波が図の右側に広がっていくと考えてよい。
(1) 壁のの位置にすき間Aを開け、わずかにずれた位置x ()にすき間Bを開ける。すき間Bを開ける位置を少しずつxの正の方向に動かしていくと、になったとき、それまで振動していた点Pでの水面が初めて動かなくなった。bλθ を用いて表せ。ただし点Pは十分に遠いので、すき間Bから見たP方向の角度もθ としてよい。
(2) 問T(1)のようににすき間がある状態で、すき間C ()に開けると、点Pでの水面は振動を始めた。さらにもう一つ、にできるだけ近い位置にすき間Dを開けることによって、点Pでの水面の振動を止めたい。すき間Dx座標を求めよ。
U 次にすき間の幅が広い場合を考えよう。点Pは問Tと同じ位置にあるとする。すき間の一方の端を,他方の端をとする(32)。以下の問については、すき間内の各点から円形波(素元波)が右に広がっていき、その重ね合わせが点Pでの水面の振動になると考えよ。
(1) すき間内のある位置 ()から点Pまでの距離と、すき間の端から点Pまでの距離の差を、θ を用いて表せ。
(2) から出た円形波の変位が点Pでゼロである瞬間に、すき間内の各点 ()からくる円形波のすべての変位が点Pで同符号である(強め合う)ためには、すき間の幅wはどのような条件を満たしていなければならないか。
(3) すき間の幅をからまで増やしたとき点Pでの波の振幅はどのように変化するか、理由を付けて答えよ。ただしbは問T(1)で求めた値である。
V 今度は点Pは壁の近くにあるとし、壁との距離をLとする。図33のように、点Pの真正面にすき間を開ける。そのすき間の幅をゼロから増やしていくと、幅がになったとき点Pでの振幅が最大になった。rLλを用いて表せ。
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各問検討

[1](解答はこちら) この問題で要求されている基礎事項は、2力の合成、復元力、単振動の運動方程式、相対速度の考え方、静止摩擦力、力学的エネルギー保存則といったことです。レベルとしては、教科書レベルで充分です。U(4)がやや高レベルですが、基礎がしっかりできている受験生であれば、本問は完答も不可能ではありません。
しかしながら、基礎事項の理解に不充分な点があると、至る所に引っかかるポイントが散りばめられています。
U
(1)はグラフを選ぶだけですが、問題文の単振動のグラフに惑わされると、勘違いしかねません。箱の運動の状況、ベルトに対してどう動いているか、ベルトに対して静止していれば静止摩擦力が働く、という物理的状況をしっかりつかまないと、正解は困難です。
U
(2)は力のつり合いの式、(3)は力学的エネルギー保存則の式を書くだけなのですが、やはり箱の運動の状況をつかんでおくことが必須です。
ここまでは、教科書をしっかり読み込んでおきさえすればできます。問題集の解答を斜め読みして暗記するような努力は物理では役には立ちません。まずは基礎を固めることが大切だということをしっかりと頭に入れておいてください。
U
(4)は、垂直抗力の大小によって、問題文中の単振動のグラフがどうなるのか、ということが図示できれば、ほぼ明らかなことです。振幅が変化しても単振動の周期が変わらないこと、滑り出すときに連続的に速度が変化することがつかめていれば、理由を説明することもできるでしょう。
くどいようですが、物理を得点源とするためには、まずは、教科書をバイブルとして熟読し、基礎事項や物理法則をしっかり理解することに力を入れるようにしてください。



[2](解答はこちら) 電磁気の問題ですが、'07年前期[1]と同様に、教科書レベルの基礎事項の理解が問われる問題です。高尚な受験技巧を用いるようなところはありません。問題文で述べられている物理的状況も、図示もされていて明確で、題意の把握でつまづくようなこともないでしょう。途中、エネルギー保存を考えるところがありますが、問題文中に「エネルギー保存則を用いると」という指示があり、受験生が戸惑うことはないはずです。
にもかかわらず、こうした問題が東大の入試に出てくる、ということは、東大受験生と言えど、物理の基本が怪しい人がかなりいるということだろうと思います。早く入試問題を解けるようになりたいと焦り、基礎事項の理解が不充分なまま、入試問題集などに当たって時間をムダに使うことのないようにして頂きたいと思います。



[3](解答はこちら) ‘07前期[1]'07前期[2]とは一転して難問です。TからU(1)までは、経路差、干渉の条件を聞いているだけなのでスンナリ来ると思います。
問題はまず、U
(2)です。問題文の言っていることがつかめるでしょうか?すき間内のある位置からP点にやってくる波は、(1)より、からP点にやってくる波と経路差を持っていますが、この分だけ位相が進んでいます。振幅の違いを無視して考えると、からP点に来る波がだとして、からP点に来る波はです。問題文では、をみたすすべての点からP点にやってくる波について、の値が同符号になるようなwはどうなるのか、と、聞いています。からP点に来る波の変位がゼロとなる瞬間、と言っているので、として考えると、が同符号だということは、,つまり、ということです。なので、wについて、となります。ここは、題意がつかめて正弦関数のグラフを思い浮かべれば、解答できるでしょう。
U
(3)は、ほとんどの受験生が単スリットの干渉条件を考えてミスし、正解者はほとんどいないだろうと思います。高校物理の波動では、2波が干渉して強め合うかどうか、ということを扱いますが、多数の波が重ね合わされた場合に振幅がどうなるか、という波を積分したものは扱いません(強いて言えば、ホイヘンスの原理だけです)。ずーっとプラスのものを足し合わせれば増える、マイナスのものを足すようになると減る、というだけのことで、U(2)の意味を冷静に考えれば高校の範囲でできないわけではありませんが、ちょっと、入試問題として無理なのではないか、という気がします。
Vは、U
(3)を用いて考えるので、U(3)をミスすると自動的にアウトになります。
結局、この問題は、題意を把握できるかどうかでU
(2)の出来不出来が分かれる程度で、ほとんどの受験生がTとU(1)を正解、U(3)とVは不正解となってしまい、全く差がつかなかったのではないかと思います。
受験生の立場からすると、どうせ受験技巧的なものではU
(3)は対処できないのです。教科書レベルの基礎事項をガッチリ固めて、得点できる問題は確実に得点をしておこう、ということになるでしょう。



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