東大物理'06年前期[3]

 図3のように、密閉されたガラス容器(容積V)のなかに、導電性のワイヤで吊り下げた金属の板(面積S)と電子銃が取り付けられている。電子銃からは電子が初速度0で出る。その電子は電圧fで加速されて板に垂直に衝突する。この容器には、気体分子同士の衝突を考えなくてよいほど希薄な気体(nモル)が存在している。電子銃から出た電子は、直接板に力を与える以外に、気体分子を介して間接的に別の力を板に及ぼす。それぞれの力を求めるため、気体は理想気体の状態方程式に従うものとして、以下の問に答えよ。電子の電荷と質量をそれぞれ、()m,気体分子の質量をM,アボガドロ数を,気体定数をRとする。また、図3のように、電子銃から板に垂直に向かう方向をx軸,それと直交する2方向をy軸,z軸とする。ただし、電子銃、板、ワイヤの体積は無視してよいものとする。
T まず、電子銃から出た電子が板に直接与える力を求めよう。ただし、すべての電子は板に垂直に衝突し、板で反射されることなく吸収されるものとする。
(1) 電子銃から出て加速された1個の電子が、板に衝突する際に板に与える力積を、femを用いて表せ。
(2) 電子の流れ(電子線)によって生じる電流がIであるとき、板の表面に垂直に加わる平均の力Fを、Ifemを用いて表せ。
U 次に、電子線を照射していない状態で、気体分子が板に及ぼす力を考えよう。状況を簡単化して、気体分子の1/3x軸方向に、1/3y軸方向に、残る1/3z軸方向に、それぞれ同じ速さvで運動しているものとする。また、それぞれの軸方向に運動する分子の半数ずつは互いに反対向きに運動しているものとする。
(1) 単位時間に板の片側に入射する気体分子の数を、nvSVを用いて表せ。
(2) 気体分子と板の衝突が弾性衝突のとき、気体が板に及ぼす圧力Pを、nvMVを用いて表せ。ただし、板は十分重くて動かないものとする。
(3) 理想気体の状態方程式を利用して、vMRおよび気体の絶対温度Tを用いて表せ。
(4) 実際には、気体分子と板の衝突は弾性衝突ではなく、むしろ完全非弾性衝突となることが多い。そのような気体分子は、板に衝突して板の表面に一旦吸着される。しかし、吸着された分子は再び表面から放出され、単位時間に板に入射し吸着される分子数と板から放出される分子数がつりあった状態になる。板の表面の温度がであるとき、吸着された分子はU(3)Tに置き換えた速さで板の表面から垂直に放出されるものとする。ここではとし、入射するすべての分子が板とこのように完全非弾性衝突するとして、気体分子が吸着・放出によって板に及ぼす圧力を、nvMVを用いて表せ。ただし、吸着による気体中の分子数の減少は無視できるものとする。また、板は動かないものとする。
V 電子照射によって板に間接的に加わる別の力を考えよう。
(1) 電子線を照射していると、入射電子の運動エネルギーによって照射面の温度は反対側の面の温度より、だけ上昇する。この場合、単位時間に板に入射し吸着される分子数と板から放出される分子数がつりあった状態でも、両面に気体分子が及ぼす圧力に差が生じ、板には力f が加わる。その理由と力f の向きを答よ。ただし、板に入射する気体分子の温度Tと、電子照射面の反対側の面の温度は等しく、電子線照射前と変わらないものとする。
(2) V(1)の力f を、TSおよび電子線照射前の圧力Pを用いて表せ。ただし、温度上昇は十分小さく、電子照射面では一様とする。また、1より十分小さいときに成り立つ近似式を用いてよい。

[解答] 題意が把握できていれば指定されたとおり考えるだけなので難しくはありません。読解力の問題です。

T(1) 電子銃から飛び出した電子は電界で加速され、エネルギー (電位・電圧を参照)を受け取って金属板に衝突します。板に衝突するときの電子の速さとして、
 (運動エネルギーを参照)
1個の電子が、板に衝突する際に板に与える力積(運動量の原理を参照)
......[]

(2) 電子線の電流Iのとき、単位時間に板に到着する電子の個数は、
板の表面に垂直に加わる平均の、つまり、電子線が単位時間に板に与える力積の大きさは、(1)の結果にをかけて、
......[]

U(1) nモルの気体分子のうち、x軸方向に運動し、そのうちのx軸正方向に運動するので、x軸正方向に運動している気体分子は、モルで、個あります。単位体積当たりでは体積Vで割って、個です。
単位時間に、面積Sの板に到来する気体分子は、気体分子が単位時間vだけ進むので、体積の中にあって、x軸正方向に運動する気体分子です。
......[]

(2) 気体分子1個は、板に垂直に速度で衝突して、速度で跳ね返るので、気体分子1個が板から受ける力積、即ち、気体分子1個の運動量の変化は、
 (運動量の原理を参照)
板が気体分子1個から受ける力積は、これの符号を逆にしたもので、
従って、
単位時間に、これらの気体分子が板に及ぼす力積の大きさ、即ち、気体が板に及ぼすの大きさは、
気体が板に及ぼす圧力は、
......[] (気体分子運動論を参照)

(3) 状態方程式(2)の結果より、

......[]

(4) なので、気体分子が板に衝突する直前の速さと、放出された直後の速さは同じです。気体分子が板に吸着されるときに、気体分子は板に力積を与え、板から放出されるときに、再度力積を与えるので、吸着と放出で合わせて、力積を板に与えます。
これは、気体分子が板に、衝突する場合も、一旦吸着されて放出される場合も、板に与える力積は同じであることを意味します。
よって、気体分子が吸着・放出によって板に及ぼす
圧力(2)Pに等しく、
......[]

V(1) 電子が衝突する側の面(照射面)と反対側の面では、前者の方が電子が供給するエネルギーの分だけ温度が高くなります。
題意より、板から放出される気体分子の速さは、ですが、温度が高ければ、放出される速さも大きくなります。
板の左側の面
(照射面)から放出される気体分子の速さの方が、右側の面から放出される気体分子の速さよりも大きいので、板の左側の気体が板に及ぼす圧力の方が、右側の気体が及ぼす圧力よりも大きくなり、x軸正方向のを受けることになります。

理由:板の左側
(照射面側)の方が右側よりも温度が高く、放出される気体分子の速さ、従って、板に与える力積の大きさが大きく、板に及ぼす圧力も大きい ......[]
力の向き:x軸正方向 ......[]

(2) 板に衝突する直前の気体分子の速さは左側、右側ともに、
U(1)より、単位時間に板の片側に入射する気体分子の数は、
板から右側に放出された直後の気体分子の
速さv
板から左側に放出された直後の気体分子の速さは、
右側では、気体分子1個が板に与える力積で、II(4)より右側の圧力は、
左側では、気体分子1個当たりの吸着・放出前後での運動量の変化は、
気体分子1個が板に与える力積は、
左側の
圧力は、

......[]


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